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【CHECK】
『トレーニング・デイ』でアカデミー賞主演男優賞を受賞した、デンゼル・ワシントンの社会派サスペンス。監督は、重病の息子のために立ちあがった父親の大胆な行動を描く。スリリングながら、父性愛の描写は感動的。自らの娘も心臓の手術で、主人公と似た立場を体験したという
ニック・カサヴェテス。

【STORY】
クリックにて拡大表示できます地元の製鉄所で働くジョン・クインシー・アーチボルト(デンゼル・ワシントン)は、貧しいながらも妻と息子の3人で幸せに暮らしていた。だがある日、息子が突然倒れ、移植が必要なほどの深刻な心臓病であることが判明する。すぐさま移植を願い出るが、リストラで就業時間を減らされた際、知らぬ間に適応範囲が狭められてしまっていた健康保険では、手術費用はおろか、移植希望者リストに息子の名前を載せるための前払い費用さえ賄えない。ジョンはありとあらゆる手だてを尽くして費用を工面しようとするが状況は絶望的。追い討ちをかけるように、病院側から息子の退院勧告が。思いあまったジョンは銃を手に、主治医(ジェームズ・ウッズ)や居合わせた患者を人質にして病院を占拠、息子を救えと要求する。

【REVIEW】
世の中は不平等で不均衡。そんな言葉が聞こえてきそうな映画だ。映画の中で、主人公の同僚が「この世には、持つ者と持たざる者がいるんだ」と怒りを取材カメラにぶつけていたように、お金持ちの人たちは楽々と資産を増やしていって、貧しい人たちは財産をすり減らしていくしかない。この映画であぶり出されるのは、そんな「金がない者は、まともな医療を受けられない」というアメリカ社会の医療保険制度や雇用の問題点。そもそもこの映画で扱われている心臓移植自体も、他人の死によって臓器が提供されないと成り立たないわけで、映画冒頭の、「持つ者」の事故という不幸が他者の幸福になるというのはなんとも皮肉なことか。

しかし、観る者の心を捉えるのは、そういった社会に対する批判のメッセージより、息子を救いたいと純粋に強く願う父親像だろう。息子のためならどんな犠牲も厭わないという姿に観客は心を打たれるに違いない。それが私のように例え子を持たない人でも、だ。

クリックにて拡大表示できます平和な生活から一転して危機へと突入する序盤の描写からテンポがよくて一気に引き込まれる。この映画のいいところは、病院に立てこもるという非常手段をとる前に、ジョンQがありとあらゆる手を尽くしたと、観客がきちんと実感できる作りになっているところにある。最初から病院を占拠するという暴挙に出ていたら、二流のドラマになっていたはず。保険会社の担当者に掛け合い、行政の医療費扶助制度を利用し、友人や地域の人たちから善意のカンパを募り、家財道具や車を売り払い、マスコミに窮状を訴え、病院に支払いの猶予を求める。だがそれでも、展望は全く開けない。自分は充分に努力した。だがそれでも今目の前で息子が死のうとする時、父親は他に何ができるだろうか?

クリックにて拡大表示できます息子を救うには、事実上、銃に頼るしかない!という彼の心理の動きが、そこまでの必死な努力により手に取るように分かる。銃社会であるアメリカらしい選択であり、市民の命を盾に取るのは法とモラルに反するのではないか?という疑問はさておき、こんな事態でなければ、ジョンQは絶対に銃を手にしない人間であるという印象がここまでにインプットされているのですんなり感情移入できる。意地悪な言い方をすれば、観客はジョンQに共感を抱かねばならないようになっている。これは、映画の中で人質に取られた人たちが、犯人と一緒の時間を過ごすうちに、犯人に対して同情的になる『ストックホルム・シンドローム』という有名な症候群の作用を、この映画を観てる観客たちにもうまく利用しているといえる。それを助長するように、病院院長(アン・ヘッシュ)は高飛車で冷たい官僚的な女性に、心臓移植医(ジェームズ・ウッズ)はいかにも自己中心的に、マスコミはスクープがあると群れる蛾のような存在に、警察は重罪人は即撃ち殺そうとする冷徹な組織にと、我らのジョンQ(笑)が一層引き立つように、役者・舞台は揃ってるのだ。

クリックにて拡大表示できます確かに、冷静になって現実に当てはめて考えてみると、かなりこの映画はご都合主義的な面がある。ネタバレになるけれども、結果的に病院側はジョンQの要求を聞き入れ、心臓移植手術を行うわけだけど、今回たまたま息子の心臓の適合者が1人だったからよかったものの、もし他にもいて、それがちゃんと前金を払って先に移植希望者リストに載せてもらってる人だったらどうするんだとか、同じように金のない人が、同じような手口を使ってまた来たらどうするんだとか、一時的にはハッピーエンドに見えるラストも、中長期的にはジョンQの息子は、「あいつは親父が犯罪を犯したから生きていられるんだ」と、生涯後ろ指をさされながら生きていくことになりかねないんじゃないかとか、色々ツッコミを入れたい点はあるにはある。

クリックにて拡大表示できますしかし、鑑賞している最中は、そんなことをねじ伏せてしまうくらい、ジョンQを演じているデンゼル・ワシントンが素晴らしい。特にラスト近く、暴挙の幕を引こうとする時に見せる迫真の演技は、アカデミー主演男優賞受賞作品である前作『トレーニング・デイ』での、追いつめられた人間の危うい心理も加わり、これぞ真骨頂といった感じで、ただただ素晴らしい。いや、デンゼル・ワシントンだけじゃない。前述のアン・ヘッシュやジェームズ・ウッズはもちろんのこと、交渉役に当たる名優ロバート・デュバルや、私利私欲のためにジョンQを撃ち殺していち早く事件の解決を試みようとする警察署長役のレイ・リオッタまでが素晴らしい。とにもかくにも、この映画はこれら俳優たちの力で、ともすればメッセージばかりが鼻につく社会派映画から、父と息子の絆を描くヒューマンドラマに置き換えられている。デンゼル・ワシントン主演の作品にまた感動作が加わったといえよう。
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ジョンQ -最後の決断-

原題:JOHN Q

監督:ニック・カサヴェテス

キャスト:デンゼル・ワシントン、ジェームズ・ウッズ、
      アン・ヘッシュ、レイ・リオッタ、
      ロバート・デュバル

上映時間:1時間56分

2002年度・アメリカ作品

2002/11/23(土):公開

2002/12/03(火):MOVIX倉敷にて鑑賞

評価:★★★★★
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